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プロローグ
自室と化した見慣れぬ部屋。ベットから距離のある窓からは、金色色の光が長々と伸び照らす。
オシプは差し込む光が目にかかるのを疎ましく思いながらも微かに重い瞼を擦りながら解した。
小鳥の囀りと、早くも聞こえる通り喧噪。そして、柔らかいベットがオシプに現状を自覚させる。
慣れなくてよかった。堕落が今後の生活を厳しいものに変えると言う事を知るため、そう思わずにはいられなかった。
オシプはのったりと起き上がると大きく伸びをし、ここ数日の日常を名残惜しく思う。
しかし、ベットの横に置かれたリュックサックを抱きしめながら目をつぶり、己の決意が鈍らぬように自身を戒めることでその思いを心の隅へと押しやった。
部屋を出て朝食を取るべく居間に近づくと、ほのかにチーズとトマト、バジルの香りに気がつく。
その香りから、今朝の朝食も濃く重たい味付けであると知り、若干気持ちを沈ませた。しかし、これからの生活について改めて考えてみれば悪い事ではないと思いなおす。
なぜならば、それなりに(朝食でなければ)好みの味付けであったし、しばらくは質素なポリッジかカブのスープで過ごす可能性もあるからだ。
もっとも、ポリッジに至っては朝食という限定がつけば申し分は無かったが。
さらに言えば、ここの家主はオシプを気遣ってか、オシプの好きな物を出してくれるため、悪い気はしなかった。
そんな事を考えながら、オシプは家主に挨拶をするべく、本来向かうはずだった居間から離れて、鼻孔をくすぐる香りが強まる側へと向かうのだった。
「おはよう。兄ちゃん」
「よう、おはようオシプ。もうちょいで飯できるから待ってくれ」
「うん、・・・・・・兄ちゃん。今日の朝ご飯は何?」
「トマトとチーズのリゾットだ。・・・・・・ちょいと失敗してバジルが効きすぎたが我慢してくれ」
「オレガノは?」
「好きだなお前・・・・・・足すか?」
「お願い」
オシプが言うと、調理者はささっとハーブっを振りかけると、優しく鍋をかきまぜた。
良い匂いだ。オシプは思わずにはいられなかった。
これまでの生活の中心である集落では、ハーブや香辛料の類を貴重品、嗜好品とされて申しわけ程度にしか楽しめなかった。そのためその嗜好品がふんだんに使われた食事を初めて出された時はオシプを強く魅了したものだ。
その興奮具合を生温かく眺められた事には複雑な心情であったが、オシプは気にするのが馬鹿らしく思えるほどだったのだ。
「よし、食器持ってってくれ。あとサラダも持ってくるから先食ってろ」
「一緒に食べるよ」オシプはむっとし抗議する。
「無理する必要は無いぞ?」
男が持ち上げられた鍋に視線をくぎ付けになるオシプを眺めながら楽しそうに笑う。
「今日は我慢する」
「あいよ」
男は鍋とサラダが盛られた器を持ち、オシプは二人分の器と小皿を持ち上げた。
「・・・・・・んじゃ運ぶぞ」
「うん」
オシプはついつい、鍋に目がむくのを絶えず主張する香りのせいにしながら、転ばないように気を引き締めた。
口の中に水がたまるのを恥じながらも無性に嬉しい。
この旅が成功だった事は誰が言おうと曲げる気は無くなっていた。
こんなにも心地よく、
暖かいのだから。
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