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二話
ジェノスが建物の中に入ると、ロビーには若者から初老ともいえる年のものまで男女関係なく席に座ってくつろいでいる者、受付で依頼の報告や登録を行っていたり、掲示板から依頼を探したりしているもの達であふれていた。しかし、各国から商人が集まる商業都市のギルドにしては、ほかの国と比べて人が少なく、ゆったりとした時が流れている。
臨時雇用派遣組合、通称ギルドは、教会が配置されているほぼすべて国家に存在する。ギルドは大小さまざまな仕事が紹介されている施設だ。
仕事には、危険度や専門的な技能や資格の有無などにより、難易度で表され、クラス分けされている。
仕事の幅は要人の護衛や護送。大型の有害動物、通称魔獣と呼ばれるものの駆除などから、郵便や荷物の配達や、食堂での調理から皿荒いや配膳までと、とても幅広くあり、長期短期問わず仕事を探す人が多く出入りしている。
町の人も出入りするが、日にちが短い仕事も多いので、町や国を行き来する旅人や駆け出しの商人などと言った人たちが手軽に足りなくなった資金を稼いだりするのに利用されるのが多い。
また、それとは別に難しく危険でも収入が多い討伐や護衛、警備の仕事のみを引き受けて生活をする、通称傭兵と呼ばれる者も珍しくは無かった。
当然そのような人たちは、自身のみを守るため武器を携帯しており、その一定ランクの仕事を受けない者でも武器を携帯していることは少なくない。
そのため、ギルドを利用する人は、例外なく出身国の首都のギルドで検査、認定後に交付される認証章を身につけるのを義務づけられている。
「仕事をお探しですか?」
ジェノスがカウンターに近づくと仕事があるか聞く前に受付の三十代半ばくらいの男性が聞いてきた。ジェノスは、「ハイ」と返事をしながら認証章をわたした。
「えっと、ジェノス・バーランドさん、E、D、C・・・・・・ほぉAランクもですか。どれほどの希望契約期間の仕事がよろしいでしょうか? また、ほかになにか要望があれば話してください」
「そうですね、今日から一週間なら大丈夫です。あまり危険でなければ、構いませんが・・・・・・。あ、皿洗や給仕のような仕事があればそれで」
「これほどの資格を持ちながらですか、いや、構いませんが。しかし、一週間ですか・・・・・・。それ以上の期間の依頼なら多いのですが――あ! ちょっと待ってくださいね」
係員の男は思いついたかのような声を上げると、乱雑に積まれてある資料から迷いも無く一冊のファイルを抜き取り、ぺらぺらとページをめくりだす。
「そうですね、これはどうでしょう? 先々週ほど前にきた依頼なのですが」
そして、一枚の依頼書を取り出しカウンターへ出してジェノスに早速大まかな内容を説明しだした。
「日にちは明日からの三日間の夜です。仕事内容はここら辺では有名な商人、ブラウン商会の屋敷で警備や、パーティーの皿運びなどの手伝いなどです。はじめの二日間は研修、本番は最終日となっています。足りない分の人数を補うために人を派遣してほしいとのことで、最低で十人以上、最高で十二人以下でというのですが、今現在、志願者が十人ほどでして、まだ空きがあります」
ジェノスは「警備かぁ」と呟き、何かと葛藤するように顔をしかめ、悩む。
「報酬もなかなか良いですしジェノスさんの履歴を見ても十分こなせる仕事だと思うのですが。いかがでしょうか?」
受付の男は柔和な笑みを浮かべながら依頼を勧めるが、ジェノスは「う〜ん」と一頻り唸った後に不安そうに言葉をつむいだ。
「・・・・・・あまり荒事は自信がない――と言うか避けたいのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。警備といっても何かに狙われているとかじゃありませんし、簡易な門番と庭の周りを不審な人がいないかを見回ることくらいです。最近物騒になってきましたから保険という意味合いが強いでしょう。それに――」
男は茶化すような笑みを浮かべて言った。
「――Aランクの仕事にくらべれば簡単でしょう?」
ジェノスは「ハハハ」と乾いた笑い声と共に苦笑し、過去を思い出すかのような遠い目をしながら視線を逸す。そして小さく、本当に小さく溜息をつく。
そして、「よし」と小さく呟くと決心したような表情で了解の意を示した。
「そうですね、わかりましたお願いします」
「それでは、では、一時間後こちらへ集まってください。詳しい話はむこうで話されますが、簡単な説明を行いますので。あと申し送れましたが私の名前はジャンと申します。この仕事の担当は私ですので、終了後は、受付にて私に報告してください」
ジェノスは、「はい」と返事をし、待合の席が空いてないのを確認すると、時間を潰しにギルドを出るのだった。
「おう、おかえり」
依頼の説明を終え、ジェノスが宿にもどると、カウンター席に寄り掛かるような体勢のエドワードが右手を軽く挙げて出迎え、ジェノスは微笑みながらそれを返す。
「はい、ただいま」
「良い仕事は見つかったかな?」
口元を緩めてエドワードは尋ねる。その様子は優しく、親戚を迎えるかのような温かさがあった。
「ええ、中々良い仕事をいただけましたよ」
エドガーの問いかけにジェノスは笑いながら答える。
「それは何よりだ。夕食は済ませたか?」
ジェノスは本当に食事のことを忘れていたらしく苦笑しながら頬を掻き、エドガーにお勧めを尋ねた。
「あ〜・・・・・・忘れていました。何処かお勧めありますか?」
「そうだなぁ。南部の屋台はどこも良い味をしているぞ。よほど風変わりな屋台を選ばない限りは・・・・・・だが」
「へぇ〜。それは楽しみです」
「あぁだが、うちの料理も負けては居ないぞ?簡単なものだが、夕飯はいかがかな?」
エドガーはニヤニヤと口元に笑みを浮かべジェノスを食事に誘った。ジェノスはその言葉に困惑した表情を浮かべ疑問を口にする。
「あれ? 食事は出ないのでは?」
「早めに仕込みが終わってね。客用ではないがそれなりの食事を作れる時間ができたんだよ。もちろん金は取らんサービスだ」
エドガーはサムズアップしながら言った。『ふっふっふ〜』と、得意げな言葉が聞こえてくるような笑みを浮かべながら。
「それはありがたいですね。ご馳走になります」
「おうよ、部屋で待っていてくれ、軽く温め直したら持っていく」
ジェノスが「はい」と返事を返すとエドガーは片手を挙げてぷらぷらさせながら奥へともどる。その様子を見送るとジェノスは自身の部屋へ楽しそうに向かうのだった。
「美味しい・・・・・・」
宿の一室でカチャカチャと小さく食器の音ともに静かな時間が流れている。ジェノスは運ばれた食事を口にすると意識せずに呟いていた。
食卓には大きめに切られたニンジン、カボチャ、そして細かめに切られたベーコンのシチューとパン、ポテトとパスタのサラダ、厚切りのハムが並んでおり、一般的な宿舎の食事としては十分なものであった。
「これで簡単なもの・・・・・・かぁ」
ジェノスは食事を運んできたときのエドガーの言葉を思い出す。
『あらためて、すまないな。4日後の食事はこんなもんじゃない、楽しみにしてくれ』という言葉と共に本当にすまなそうな表情をしたエドガーを思い出す。
「これでも十分すぎる気がするなぁ」
そもそもここは料亭でもなければ、旅館でもないはずなのだけど、とジェノスはこれまで世話になった宿を思い出しながら苦笑をもらした。
「うん、4日後が楽しみだ」
観光と言う観光をしてないにもかかわらず、今回の観光に早くも満足感を覚え、明日からの日々に胸を膨らませた。
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