青い空白い雲。 俺的空の黄金比、青と白によって7対3で配色された空。そんなシンプルとも複雑ともとれる模様を眺めながら大通りを歩いていると、そんな言葉が浮かんできた。 陽が照って今日は暑い。気温が下がり始めたと思ったらこうだ。寒くなると思って冬服ばかり持ってきた俺への嫌がらせだろうか。 「あっつい、暑すぎる」 こんな言葉を漏らしてしまうほどに暑い。汗が額からつつっと垂れていくのがわかる。 この体になってから比較的汗をかきにくくなったはずなのだが、ハンカチで拭いても拭いても汗が出てくる。 「教官・・・・・・上着を脱いだらどうです? 持ちますよ?」 「ありがたいがやめとくさ。それと教官はやめてくれ」 隣を歩くルイスが俺を気遣う言葉をかけてきたが俺はそれを断りつつ、既に何度目かになるお願いをするのだった。 「いえ、しかし――「せめて外ではやめてくれないか?」・・・・・・わかりました」 「大体なんで『教官』なんだよ。お前の教官は、えっと・・・・・・ルパ――なんだっけか?」 「ルパート教官ですね」 そうだそいつだ。 「そうだ、そいつがお前の教官だ。俺はただの同僚、よくて先輩、ОK?」 「しかし――」 「こまけぇこたぁいいんだよ! 大体外でてるときにまでそんなかたっ苦しい呼び方すんな。休んだ気がしないんだよ」 「ではなんと呼べば」 「別にガラスでもミラーでも良いだろうが」 よほど変な呼び名じゃない限り問題ない。爆弾魔はもちろん却下だ。 「ではガラス先輩で」 流石はルイス。無難な呼び名だ。許可なく変な呼び名、特に爆弾魔なんて言う奴らに見習わせたいよ。 「・・・・・・まぁいいか。おし、ぱっぱと買い物すまして休暇楽しむぞ。・・・・・・ノーラから頼まれてたやつってなんだっけ?」 「美味しいやつと、可愛いやつ・・・・・・だそうです」 アバウトすぎるだろ。 「テキト―な珍味と珍妙な置物でも買ってくか」 「・・・・・・ノーラの奴、泣きますよ?」 ついでにぼかすかと殴られそうだな。あいつはこいつと違って俺に対しての遠慮がないし。 昨日も泥みたいに濃いコーヒーを眠気覚ましに飲んでたら取り上げられた。 体に悪いとか・・・・・・ひったくって捨てるほどのことじゃないと思う。 少佐に命じられているのかもしれないな。 「んじゃ、ルイスが選んでくれ。俺の味覚はあいつと合わないみたいだし、センスもずれてるしな。つーか可愛いものってなんだよ・・・・・・城内出るだけの買い物で頼むもんじゃないだろうが」 「それは大いに共感いたしますがアイツがそれに同意してくれるかは謎ですね。まぁ、菓子屋と小物屋でも寄りませんか?」 「そうだなぁ。店員に聞いてみるのもありだしな。菓子はお勧め頼めばいいだろう。何処か良い店知ってるか?」 「そうですね、小物屋はこの通りに何件か、あとは確か、居住区側の通りに最近菓子店ができたと聞きましたが。そこはどうでしょうか?」 素晴らしい。ルイスお前はなんて有能なんだ。見事に目的地が決まったよ。 「あいよ、それじゃ小物屋から回るとしよう。なんか面白いものねーかな」 「面白いもの?」 「遺跡品とか、発掘品とか、年代物とか・・・・・・」 「小物屋では難しいかと・・・・・・」 「そこを何とか! コイツも価値がわかるやつに買われてなんぼってもんだ。値は負ける買ってくれないか!?」 「いや、無理だって」 価値がわかるなんて言っているが、正直厄介払いしたいだけだろおっさん。必死すぎるんだよ。 いや、まぁ確かに欲しいんだけどよ。置き場がないしなぁ。 つーか、でけぇんだよ。80センチ以上あるだろこのアヌビス神の置物。知り合いのジェントルメンが歓喜しそうな品だが・・・・・・持ち運びたくはないぞ。重さ的にも見栄え的にも。 「あの、ガラス先輩。小物は買い終えましたので先に菓子店で選んでおきましょうか?」 うむ、・・・・・・おかしいなぁ。確かにここは小物屋だったはずなんだが。確実に小物と分類してはいけないものを勧められている。 「いや、このまま出る。おっちゃん、家帰る前に寄って残ってたら買うよ」 「そうは言うがキープ中に高値で買い取る客が来たら、いやあんちゃんが買いに来なかったら大損なんだが」 いねぇよそんな物好きは。 「そんときゃ売っちまえ。物がわからなきゃ大金なんかださねーからソレ」 「いや、だが――「んじゃまたなぁ」」 「欲しかったのでは? 置き場がないなら軍倉庫にでも――」 「却下だ却下。私用にそんなところ使えんしあんなのが置いてある軍倉庫とか嫌だから。大体買って破損したなんて話はご免だしな。店に置いとくほうが安全だろ」 「・・・・・・そうですね」 「ところでルイス。お前は個人的に回りたいところ無いのか? 奇跡的に取れた外出だぞ」 「購買で十分ですので」 「・・・・・・欲の無い奴め」 購買なんて娯楽品が皆無だろうが。こいつの私生活はどれだけ禁欲的なんだ。休憩中を見ても専門書読んでるとこばかりだぞ。 まぁ、茶を飲みながら読んでる姿は何処か満たされているようではあったが。 「ガラス先輩はもうよろしいのですか? 結局、このままではノーラの買い物をしただけになりますが」 「まぁ、賑やかな街を見て回れただけでも充分だろ。お、鳥の串焼きだ。ルイス食うか?」 「いえ、私は「遠慮すんな買ってくる」いえっ! あの――」 遠慮してるが適当に買っておこう。いらないなら俺が全部食えばいいだけだしな。 「それにしても皮肉なもんだなぁあれだけ出たがってたノーラだけ却下されるとは」 もぐもぐと鳥の串焼き、かなり大きめの焼き鳥を食いながら路上を歩く。シンプルな塩コショウ味を食べ終え、バジル&チーズを堪能していた。後者のほうが少々高く、こってりだ。 「そうですね。今朝なんて物凄い顔で睨まれましたよ」 「え? ・・・・・・何? そんな憎しみがこもってた?」 塩コショウを食べながら発せられたルイスの言葉に冷や汗が止まらない。 え、ちょっと・・・・・・やめてくれない? 『中に人なんて――』とか空っぽの鍋とか、『嘘だっ!!』とか俺の脳内で再生されてるんだけど。 何が怖いって、こんなものを再生する俺の脳が怖い。 「いえ、後が怖いという意味では近いですが違いますね。・・・・・・涙目でした。」 青くなった俺の表情を見てか、苦笑しながらルイスが俺の想像の間違いを訂正する。 ・・・・・・泣くなよ。 どんだけ行きたかったんだよあいつは・・・・・・。その割に注文がテキトーだったことを考えると――あれだな・・・・・・あいつも買いたいものがあったんじゃなくて任務以外で外を出歩きたかったんだろう。 ・・・・・・かわいそうになってきた。 そして危なかったな。珍味や珍品を買ってたら本気でぼこられたかもしれない。 「・・・・・・多めに菓子を買ってってやろうか」 「そうしましょう。・・・・・・小物は我々のセンスでは心元ないですから」 正直、3人共に休めるなんて理想は叶えられなくとも、ルイスとノーラが休めればよかったんだがなぁ。企画した本人のみが却下喰らうとか不憫すぎるだろう。 「ルイス? その包みに入れた鶏肉どうするつもり?」 「ノーラへの差し入れに」 ルイス・・・・・・お前の優しさに涙が出そう。 「コンロで暖められればいいがな・・・・・・」 「・・・・・・」 ・・・・・・焦げた鶏肉の成れ果てを想像したのは俺だけだろうか? |
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