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番外編5




 

「暇だ」

 休憩室で待機する俺と同僚。外の通路では頻繁に人が行き交うのが足音と、開きっぱなしの出入り口からちらりと見える人影でわかる。

 俺がこんなところにいる原因でもある爆発物の騒ぎは沈静化してきたが、祭りが近いため、警備や審査などで騎士団や部隊内は慌しくなっていた。

 さらに言うなら、俺らが出動する間もないような突発的な騒ぎは無くなってはいないし。

 爆弾を投げ込んで逃げるなんてやられたら処理する時間も無いからな。

 世の中上手くいかない物ことばかりである。

 などと、そんな周囲とは隔絶されたような空間で思考しながらも今の状態を的確に表すであろう言葉をこぼしたのだった。

「不謹慎ですよ〜」

 現在、待機のため、俺は眠気覚ましにコーヒーを、ノーラは紅茶を飲んでいる。ちなみに俺が淹れたコーヒーを進めたが断られた。

 軽くショックだったのは内緒だ。

「ふむ」

 不謹慎ねぇ。

 まぁ、確かに不謹慎だろう。忙しい時に何をしているのかを考えれば。

 だがなぁ。

「いや、他に仕事無いものかと思ってな。門番の代わり――駄目か、出動を考えるとやれんな。書類整理は、ここの勝手がわからんし・・・・・・」

 考えをめぐらすが、妥当と思われる案が浮かんでこない。

 普段は動く気はしないのだがなぁ。

 う〜む、周りで動かれていると気まずい上に無性に動きたくなるのは何故だろうか。

「やっと休憩時間に入ったのに何を言ってるんですか。ガラスさんは仕事を探す前に休むことを考えてくださいよ〜。この前強制休養命令出されていたじゃないですか〜」

 ノーラが呆れたような顔で「初めて聞きましたよあんな指令」とか言っている。

 うっせーよ、俺も初めて聞いたっつーの。

 まぁ、そのとばっちりを受けさせてしまった手前、そんなことを口に出すことはできないが。

 しかし、コイツと話すとあの黒髪空き巣をを思い出すなぁ。

 というか、付添が指名されるにしても、ルイスだけだろうと思ったのだが、少佐の身内贔屓も大概だな。

 いや、身内だからこそ遠慮なく使うのかもしれないが。

 そもそも、誰を使おうとも、忙しい時期に三人――いや、俺を抜かせば二人をそんな理由で拘束するとは何事だと。

 いや、原因を作った俺が言えたことでもないのだが・・・・・・。

 ちなみにそれが原因なのか――いや100%俺のせいだろう。申し訳ないことに俺たちのスケジュールが他とずらされた。

 俺は何様だと自分に問いただしたい。規則は守ってなんぼだというのになぁ。皆に頭が上がりません。

「大体、2時間って何ですか。私の3分の1じゃないですか。ちゃんと寝てください」

「そうはいうがなぁ、迂闊に寝れないんだよ。寝起きは頭が回らんし」

 何時襲われるかわかったものじゃないからな。と続けたくなったが、その言葉は口には出さない。

 正直、爆弾を解除しまくってから急に音沙汰がなくなっている。故に暇なのだが、コレが気味悪い。

 諦めたというならありがたい。しかしだ、俺を潰したほうが速いとかいう考えになっていたら正直洒落にならないわけである。

 だからこそ、比較的信用できそうな奴の勤務時間が重なっている。3時間ちょいの僅かな時間を狙って睡眠をとっていたわけなのだが。

 まぁ、解体の頃もいつブツが発見されるかわからないから寝れたものじゃなかったのだが。

「その時は私たちがいるから大丈夫ですよ!」

 元気に胸を張って発せられた言葉。ありがたいことこのうえないが。

「そりゃあ頼もしいことで」

 しかし、同時に心配でもある。

「ふっふっふ。そうでしょう、そうでしょう」

 ノーラは肯定されたのが嬉しいのか得意げな笑みを浮かべている。ルイスだったら謙遜していることだろう。

 こいつらには平穏に暮らしてもらいたいものである。

 俺は、そんな二人の運命を小さく祈った。

 そして、この両極端な同僚コンビの片割れを微笑ましく眺めながら、ふと思い出した事柄に触れてみることにした。

「そういえば、親父さんには会ったか?」

「――っぶふぉ!」

 ちょ、きたなっ!

 親娘揃って噴出するとか。外見以外は見事に親父さん似か?

 いや、それにしても何もそんなところが似なくてもいいだろうに。

 気管にでも入ったのかちょいと苦しそうにノーラが咽ている。

 あぁもう、テーブルがぬれたぞ。てか、年頃の娘がそんな豪快に噴出すとかどうなんだよ。

 俺は、たまたまテーブルの端に置きっぱなしにされていた布巾で水分を除去し、ため息をつきながら原因である娘を眺め、次の反応を待った。

「ゲホ、グゥッ・・・・・・何のことでしょうか?」

 軽く涙目のノーラは息を整えると、済ました顔ですっ呆けたことを言い出しやがった。

 おい、誤魔化せると本気で思ってるのか? てか、隠してたのかよそれ。

「まぁ、呆けたいなら呆けてろ。俺は勝手に進めるから。いやぁまさか、少佐の娘とは。あれだ、ノーラ俺のことはおじさんとよんでいいからな」

「呼びませんよ!! おじさんと呼ばれるような歳じゃないじゃないですか。というか、どうしてそういう話になるんです!?」

「歳は関係ない。ノーラ、子供の時親父さんの同僚もといお友達が家に遊びに来た時、なんと呼ぶ?」

「そりゃぁ、何々おじちゃんとは呼ぶかもしれませんけど」

「少佐と俺は同僚だし、前に親友宣言されたんだよ。だから該当するだろう?」

「しませんよ!? したとしても呼びませんから!」

 おかしいなぁ、そこまで拒否しなくても。むしろ、向こうから嫌がらせに呼んでくるんじゃないかと思ったのだが。

 ・・・・・・少佐の子か。

 まったく、いい娘すぎるから困る。

 ・・・・・・おじさんは、こんな娘もとい孫が欲しいです。

「・・・・・・何故、そんなに自分を年寄り扱いしたがるんですか?」

 ――エスパー?  いや、違うか。言葉の流れからか。

 若干の不満が顔に出ていたのか、ノーラが俺に問いかけてきた。

 いや、正直相応の態度、むしろガキっぽい反応だと思うのだが。

 体に引きずられてかなり思考が若くなってきいるしな。

 まぁ、それよりも正直に白状すると、なんというかこう・・・・・・照れくさいのだろう。

 若者らしく振舞うのがな。

 というか、元の年齢的に孫や子と重なると言うのもある。

 まぁ、そんなことを言っても信じてもらえるわけでもないので、ジョークだと言わんばかりの調子で言葉を投げかけるのだった。

「ハッハッハ、実際に年寄りなのだよ。若い者がうらやましいわ。若さ分けてくれ」

「・・・・・・絶対、私をからかっていますよね?」

 まったく、ひどい言いがかりである。

 まぁ――

「気のせいだろ」



 ――間違っちゃいないがなぁ・・・・・・。



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