「おい、・・・・・・貴様、ちゃんと寝ているのか?」 昼下がりの休憩時間。犯人も懲りたのか、それとも緩急をつけてきたのかわからないが、最近は爆発物騒ぎも減ってきた。 俺は、ここ数日は実に平和な生活を満喫している。現在も優雅、俺が使うのは厚かましい言葉だがそんな言葉を使ってしまいたくなるほどに平穏にコーヒーを少佐と共に楽しんでいた。 忙しくなくなってきたせいか、最近は良く会う。 ここで茶を楽しむのも既に2桁に上っている。くだらない世間話から警備の状況までだらだらとおしゃべりもとい、世間話を楽しんでいた。 おかげで最近、血色もいい。白髪の進行も緩やかだ。 止まらないかって? ここにいる限りでは無理だ! まぁ、ともかく。それでも最近は体調がいい。 だから、こんないかにも病人のような扱いを受けるはずではないはずなのだが。 「おい、大丈夫なんだろうな」 「あぁ、申し訳ありません。問題ありません」 銀髪の年は30――はいかないか。27,8だろう。お世辞にも良いとは言えない言葉使いにもかかわらず、これでもかというほどに爽やかさを振るまく騎士殿。 考え事をしていた俺に対して気遣うような台詞を投げかけてきた。 ちなみに、この団欒に参加するのは今回が初である。 尊大な態度をした堅物。人をいかにも見下していそう。 始めはそんな印象を受けたが、こうして付き合って見ると、なかなかフレンドリーだということがわかった。 いや、天下の騎士様がこんなところで茶を飲む時点で十分変わり者かもしれない。 飾り気皆無の兵舎に態々足を運び、時間を潰していくのだから。 う〜む。 階級が無かったら実にお友達になりたいものである。 「きちんと私の問いに応えろ。寝ているのだな?」 「必要な睡眠は取れてます。いや、あの騎士殿? そんな疑うような目で見られても事実ですから」 あからさまに疑っていますという視線を俺に送る騎士殿。おかしい、そんなに顔色が悪いのだろうか? なかなか戻ってきた気がするのだが。 「貴様、衛兵の間では昼夜問わず見かける。寝ずに巡回している。などと噂になっているぞ」 そんなことか。 「たまたまでしょう。ふらふらしているから目に付いたのかと」 沈黙する騎士殿。どうでもいいが真面目すぎる。確かに城内を回るため一時的に指揮下に入ったわけだが、問題事ではなくメンタル面でまで気にかけてくるとは。 正直、軍と騎士団は中が良いとは言えないというのに。まぁ、少佐や俺らは比較的ましなほうではあるわけだが・・・・・・。 衛兵の話からするとだいぶ人気、というか人望があるこの騎士殿。まぁ、この気の回りようがその理由なのだろう。 さらに、この若さで少佐の上を任されているというのだから驚きものだ。騎士団長になるのも近いだろう。 それにしても、噂になっている・・・・・・か。 まぁ、実質巡回もかねてはいるのだが、そろそろ散歩も自重するべきかもしれない。 好意的な解釈をされているうちに・・・・・・な。 「睡眠時間を言え」 先ほどまでには無い、厳格な声色だ。 「はい?」 思わず、気の抜けた返答をしてしまった。 そんなに信用無いのか俺は。少佐のほうへ視線を向けると苦笑が帰ってきた。 信用が無いという同意の笑いか、あるいは騎士殿の真面目さ具合に対しての苦笑か、その真意は俺にはわからない。 「普段どれほど睡眠をとっているのかと聞いた」 繰り返される問いかけ。 「あぁ、なるほど」 いえ、わかってますがね、嘘をつくとぼろが出そうなので正直に答える。 「2時間ですけど」 「グ、ゴフッ」 隣で俺の入れたコーヒーを飲んでいた少佐が咽る。口に合わなかったか? 確かに多少濃い目につくりはしたが――って、なぜそんな鋭い目で私を見ているのでしょうか騎士殿? マズイ、騎士殿の額に何故か青筋が見える。俺、本当に見えるものだとは思わなかったよ。 「・・・・・・フェイ。コイツを部屋に押し込んで寝かせろ。命令だ」 「了解しました」 ちょ・・・・・・俺の至福の時間に何を! 少佐もなに頷いてるんですか! 「いや、ウソウソ。3時間です。大丈夫ですから」 「連行しろ」 俺を引きずるように連行する少佐。騎士殿は俺の飲み残しのカップを持つ。 ちょっと! それ俺のコーヒーだから!! あああああ、お、俺のコーヒーがぁ!! 流された・・・・・・。 無残にも白い湯気を立てながら『ダパァ』と捨てられるコーヒー。 いい出来だったのに。少なくとも俺の好みの味だったのに。 地味に落ち込む。 あれか、口に合わなかったのがいけなかったのか。 不味いなら、それとなく伝えてくれれば良いのに! くっそう、何たる仕打ち。 俺が何をしたって言うんだ。 「少佐・・・・・・准尉には見張りをつけたほうが良いかもしれん」 「適任に心当たりがあります。お任せください」 二人が俺をスルーしながら、勝手に会話を進めている。 駄目だコイツ早く何とかしないと的な視線を俺に送りながら。 体験して初めてわかったことがある。 ・・・・・・コレは中々に堪える視線だということだ。 |
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