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番外編2




  まったく・・・・・・なぜ俺はこんなことをしているのだろうか。

 安全かつ安定した職に就き退屈な仕事と就寝前に酒を飲むことの繰り返しという、生物にとっては十分すぎるローテーションを手に入れたはずだったのだが・・・・・・。

 先ほどまでのような僅かなミスで月まで吹っ飛べるようなデンジャラスな時を過ごし、あまつさえ他人の人生まで背負うことになるとはね。

 勤務時間外とはいえ万全を尽くすため、中毒と言っていいほど、習慣化した酒飲みを我慢しグラスに注がれた水を啜りながら今日の疲れを癒す努力をする。

 共用の休憩室は質素なテーブルと、ティーセット、コンロと置きっぱなしのやかん。そして気休め程度に娯楽用として本棚が置かれているという、寂しい状態だった。

 今でこそこの世界では珍しい爆弾解体などということをしているが、俺は目指したことも無く、ほんの少しでも今の状況を予測することは無かった。

 極一般的なと言うのは語弊があるが、一応平民の家系に転生した俺は早くから知識を詰め込みできうるだけ安全かつ安定した職につくため勉学に励んでいた。

 だが、戦時中の俺に選択肢がそうそう与えられているわけが無く、国の教育システム上、強制的に兵士にさせられてしまったわけだ。

 必死になって学習したことは一切役立つことは無くかった。

 しかし、予想外ものが俺の人生を大きく変えることになったのである。

 小難しい経済や、政治、宗教、国家などという学習を俺は行ってきた。しかし、役立つと思っていても(実際には役立たせることはできなかったが)やはり勉強、それなりにストレスが貯まるし、息抜きを行うのは自然なことだと思う。

 そのとき、息抜きとして俺が行ったことなのだが、今思えばそれは大きく選択を間違っていたといわざるを得ない。

 第二の人生からこの世界の言語はなれ親しんできたわけだが、俺にはもう一つ母国語ある。

 そう、日本語だ。

 たまたま、訳わからんものを買いあさることが趣味だった、今は無き父。俺はそのコレクションの一つ本をたまたま手に取った。

 遺跡からの発掘されたものらしくそれなりに貴重なはずなのだが、如何せん読める人は極少数。

 表紙のにこやかな表情でこちらを見る少年少女の絵も拍車をかけ、実用性のがないに等しいガラクタにしか見えなかっただろう。

 幼い俺が持ち運んでも咎められないほどのな。

 運命と言うものがあるならば、そいつのそれこそたちの悪い悪戯だったのではないかと俺は思っている。

 察しはついているかもしれないがその書物は古代語と呼ばれるものの一部は『日本語』で書かれた物だった。

 内容は難しかった。本当に難しかった。正直表紙は詐欺としか言いようがない。

 しかし、しばらくみなかった母国語で書かれた本を目の当たりにして冷静を保っていられるだろうか? いいや、なれまい!

 内容はともかく俺は暇さえあれば懐かしい気持ちを心に抱きその書物を延々と読みついには理解するに至ったわけだ。

 難しい事柄を理解する。それはとてつもない達成感を得ることになると俺は思う。
 趣味や暇つぶしとはいえ、それなりに努力したものが身になったのだ。たとえそれがどんなに役に立たないものであろうと。

 そして俺はその知識を生かすつもりは毛頭無かった。

 その本の題名が『初心者でもわかる爆発物の処理』などという馬鹿げた題名だったのだから。

 初心者にプレッシャーをかけないように緩めのくだけたデザインを選択したのかもしれないが、正直これはどうかと思う。

 何故こんなものが出版されているのか、この状態で出版に踏み切ったのかと言う疑問が尽きなかったがね。需要的な、そして、治安的な意味で。

 それに、専門的な書籍が絵本のような表紙って・・・・・・。

 いや、どこぞの誰かが悪ふざけで表紙だけ作ったのかもしれない。中身はきわめて真面目だったし。

 なんという技術の無駄使い。

 とにかく、それが間違った人生分岐の始まりだったのだろう。まぁ、それだけが今の状態の原因ではない。どう考えてもアレが決めてだしな。

 だけどさ、その知識を披露するか、死ぬかの2択を迫られて死を選べるかな?

 当時、爆弾自体はそれなりに存在したが投石物や、簡単なブービートラップのようなものが主流だった。当然、設置し、スイッチやなにやらで任意に爆破するような技術はオーバーテクノロジーの産物だ。

 幸いそのためか、テロなどで仕掛けられた物で簡易的にそのような技術が使われていても、目覚まし時計にくっついている程度のものだった。

   また、そのつくりは、素人でも本を見ながら解体、解除できる(冷静であればだが)ほどに極めて単純な代物だったため、例の本を暗記するほど読みつくした俺は無事に爆発物を無力化することに成功したのだった。

   ボンバーマンよろしく、リモコン爆弾なんてものが無かったことを感謝するしかない。

 単純な代物。しかし、それでも当時は珍しく、発掘間もない技術で作られたものだ。当然目をつけられる。

 まぁ、そんなこんなで俺は、国内では組織されて間もなかった、爆発物処理班の一員として所属することになってしまったのである。

 まったくもって、人生とはままならないものであると俺は心に強く刻み、愚痴をただひたすら書き綴るだけの日誌を作成し始めたことは良い思い出だ。今はもう処分したので存在しないが。

 戦時中は前線には出たのは少ないものの、現場に借り出されてひやひやものだった。しかし戦後、後任者をうまく教育し、任せ、そして俺は晴れて――とはいえ班から外さないと解体中に爆死してやろうかとこぼした言葉がどっかの偉い人に聞かれてしまうという出来事(不名誉な呼び名の由来と思われる)も関係しているかもしれんわけだが。

 ――いや、アレではない、はず。時期的にもずれているし。

 ・・・・・・違うよな?

 ま、終戦したのが一番の決め手だろう。俺以外の同僚も数人他の部署へ移動していたようだし、俺も限定的な条件がありながらもにゲート員へ移動することができた。




 訳だが・・・・・・くそぅ、テロリストもとい反逆者どもめ。あいつらのせいでまたこんな仕事をやる羽目になったじゃないか!


「はぁ」

 一頻り心の中で不満を爆発させながら溜息をつきながら、テーブルへグラスを置く。

 あぁ・・・・・・水が美味い。

 水でこんなに美味いのだ・・・・・・今酒が飲めればどれほどなのだろうか・・・・・・。

 無味無臭、透明の液体の入ったグラスを見つめる。

 ついつい、グラスの中に濃い赤い色をした液体が注がれている様を想像し思う。

 中々に末期かもしれない。

 生きて自宅へ帰れたら二日酔いどころか1週間酔うくらい飲んでやろうか? ――なしだ、フツーに美味しく飲もう。

「あぁ〜ガラスさん。そんなもの飲んで〜。お茶くらい入れたらいいのに〜」

「まったく、教官は・・・・・・声かけてくれれば最高のお茶を淹れるますよ」

 間延びした甲高い非難めいた声と、硬いながらも気遣うようなテノールの声が部屋に響く。

 今更ながら思うが、こんな若い者たち(俺とは肉体年齢はさほど変わらないが)に死と隣り合わせの仕事を押し付けるとは、こいつらより若いやつもいると聞く。まったく腐った世の中だと思う。

 俺? 中身はオッサンもしくはジイさんですから。

「なに飲んでいようと俺のかってだ。酒じゃないだけましだと思うがね。」

「飲まないでくださいよ!? 生死がかかってるんですから!」

「教官なら飲んでも問題ないのでは?」

 う〜む、見事に正反対とも言える反応だ。ノーラの反応はわかるが、ルイス・・・・・・お前の信頼が胸に痛いもとい、どこからその信頼もとい自信が来るのか数日ほど問いただしたいよ。生死以前に職務中飲むのはすでにアウトだ。

 あぁ・・・・・・そういえば言い忘れていたが異様に取り乱したような反応を見せている赤毛でショートの少女が先ほどの解体に同伴してたノーラ。焦点がどこか外れているような目で俺を見ている少年がルイスだ。

 なんか教官なんて呼ばれていた気がしたが、そんな関係になった記憶は無い。

 二人とも、俺の後任から教育を受けて配属された処理班、つまり同僚なのだが、経験のため、そして俺の補助のためと言う名目で就いている。変な信頼を俺に寄せているようだが、俺にとって重荷以外の何者でもない。

 正直二人の将来というか命が心配だ。非常に不本意というか、俺の身の為に行いたくは無かったが、近いうち直々に出し惜しみした知識を叩き込んでおいたほうがいいかもしれない。

 この二人は悪用しないだろう。厳重に言いくるめはするがね。

 それに丁度いい機会だ。後に回さず今その第一講義を始めるのも良いだろう。

 ・・・・・・犯行側が俺の能力を超える前に済まさねば安心して隠居もできないゆるされないのはもちろんだが、何時死ぬかもわからんからな。


「冗談はさておき、折角だ。簡単な講義と・・・・・・良いことを教えてやるよ」

「おおお! 本当ですか?!」

「え!? あ!? お願いします!!」

 俺の言葉に二人が大きく反応する。片方は普通といってはなんだがうれしそうに。もう片方は目玉が飛び出るかと思うほど興奮して――つーかルイス落ち着け! 冷静な、普段クールなお前はどこにいった?

 ともかく俺は、二人の反応を楽しみながら今後の自己保身の為に全力を尽くすのだった。




 ――あぁ・・・・・・酒がのみたい。

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