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番外編1



 ふと気がつくと、俺は薄暗い意識とぼやけた音が支配する世界にいた。体の自由は利かないのは勿論、瞼を開くことも、満足に声を上げることもできない有様だ。

 ついでに言えば思考も定まらない。俺は一体どういう状況なのかと必死に思い出すもののそれを答えてくれるものや、答えとなる記憶は一向に現れず、浮かぶことも無かった。

 俺の身に何が起きているのか? 何故体は動かない? 目は? 耳は? いや、俺はそもそも生きているのか? 様々な疑問が俺を支配する。

 俺は言い様の無い、それこそ文字通り話すこともできないわけだが――まぁそれは置いておくとして、強い不安と恐怖に心を支配されたわけだ。

 未知という現象は強い好奇心を満たすことが多々あるものだが、度が過ぎればそれは恐怖以外の何者でもない。

――パチン

 つまりあれだ、何が言いたいのかというと。幼児が見ず知らずの土地・・・そうだな例を挙げればデパートで迷子になったとき不安で泣き出したり。空想の産物とされている。幽霊? いや、今思うと俺はその存在をを否定することができなくなっている訳だが、とにかくそれが夜中一人で山道を歩く途中に遭遇するくらいの恐怖を一月以上の間体験した訳だ。

 その後、外界に出て、ぼやけながらも見えた光は俺に大きな感動を与えた。

 ・・・・・・泣くのが普通なのさ!
 そう、怖かったさ。それから解放されたんだ。
 見事に赤子のように叫んだよ。

 いや、でも、しょうがないだろう?

 まぁ、おかげで俺は普通の赤子と同じよう程よく泣き、健やかに成長することができたわけだ。多分だが。ストレスのほどはどうだったかわからんがね。

 いやはやまさか、自分で転生なんてものを体験できるとは思ってもみなかった。生前の俺は神様や仏様、幽霊や天国地獄。そんなものがあればうれしいなぁと思いながらも、死と同時に意識は終了し、タンパク質の塊として土に返るだけだと確信していた。

 仕方が無いことだとは思う。何せ神も天国も人が作った作り話だと考えるに十分な情報が世間には溢れ返っていたし。ダイヤモンドを人工的に作り出したり、核分裂で金を作る方法が実用性はないが編み出されている。さらに言えばクローンなんて技術があるほどの科学至上主義の世界だ。そんな科学が中心となっている社会で幻想的な出来事ファンタジーを本気で信じるのは難しいことだしねぇ。

 とにかく、そんな常識で固められた俺が輪廻転生を信じるしかない状況に立たされたというわけだ。今まで空想の産物として分類していたものの存在認めるまでではないにしろ、俺は否定しきるほどの自信を失ってしまった。

 もっとも、わからないことはわからない、在るものは在る。これほど俺の常識を破壊した出来事も、価値観を一転させることにはならず、視野は広まったがその程度だった。俺は深く考えることを放棄し、意識が覚醒して間もないうちに新たに生を与えられたという事実に感謝と感動覚え、今後の人生に夢を馳せたのだった。

――カチャカチャ

 転生し3年の月日が流れたころには。どうやらここは俺がいた世界ではないようだ(少なくとも時代と国が違うだろう)。ということに気がついた。聞いたことも無い言語でありながらも違和感なくニュアンスを使い分けることができたし、たまたま、それこそ人目を盗んで拝見した文献では、どうやら世界共通言語であるらしい。

 それと共に俺は自分の国の現状を理解したわけだが――。

 うん、現実は厳しい。というか転生ですべての運を使い果たしたのではなかろうか?

 まさか戦時中だとはね。これは近いうちにまた転生かな? いや、今度こそ土と同化することになるだろう。その可能性のほうが高い気がする。などという考えをもったのも仕方が無いことだと思う。こんなミラクルがそうそうあってはたまらないし、それを信じるほどメデタイ頭は持ち合わせていないからだ。

 それから数年俺は、現状にある死亡フラグを打開すべく、そして自分を育成ゲーム感覚とはいえ誇れるほどの努力を積み重ねてきたわけだが――。

「あのぉ〜。先ほどから急に難しい顔してどうしたのですか?」

 ・・・・・・・。

 気の抜けるような間延びした。そして緊張感を微塵も感じさせない高い声が聞こえる。
 本人は十分緊張しているらしいとのことなのだが俺にはとてもそうは聞こえない。
 ちなみにここにはこの声の主の他に俺しかいない。
 俺に話しかけているのかもしれない。おそらくだがそうなのだろう。

 ならば返事をするしかないだろう。俺にじゃなければ赤っ恥だが。

「なに、走馬灯の仕事を奪ってただけだよ」

「ガラスさんに話しかけてるんですよ! というかそんな縁起の悪いこと言わないでください!」

 イケナイイケナイ・・・・・・俺の頭蓋骨のどこからか脳内音声が漏れていたようだ。しっかし、やかましいやつだな・・・・・・縁起が悪いも何も今の現状は何時死んでもおかしくないのだから特別場違いでもないだろうに。

 確かにネガティブではあったがね。

「良いだろう別に。死ぬ前に何を考えようとも」

「やめてください!! 怖いんですよ! うぅ・・・・・・少しでも考えたくないのに〜」

 俺の言葉に泣きそうになりながら返す同僚。

 うむ、Sの毛がある男――いや者によっては女性でも歓喜しそうな表情だ。ちなみに俺はなんとも感じん。生前たまたま検索したときのネット診断では『疲れきったM』と評価されたしな。

 まぁ、あの表情を見るとすこしは意地悪したくなるがね。

 ふと、ネトゲの友人には『S』ばかりだったなとどうでも良い思い出がよみがえったが、強制的に頭から打ち消した。

「お前が怖がってどうするよ・・・・・・安心しろ失敗してもベットで一生を過ごす程度で済むから。・・・・・・お前はな」

 まぁ、確かに嫁入り前にそんな状況は勘弁したいか。ちなみに俺は即死する自信がある。プロテクターすら着けてないし。

 どうやら俺は、一度死んだ、といっても死んだ実感はないが――ためか死に対する恐怖が薄い。そうだな、コインゲームで『はい終わった』と思って最後の一枚のコインを入投と同時に席を立とうとしたら、たまたまあたりが出て中途半端に4,5枚ほど手に入れた状態のような緊張感しかない。終わったらつまらない、その程度の感情だ。

 改めて考えたがこれはまずい。他人の命まで軽く考えてしまいそうだ。そのことを考えればもう少し自身の命を大切に扱うべきかね。

 まぁ爆弾を解体セイシノヤリトリをしながらこんなことを考えてるあたり人として終わってる――とまでは言わないけど正常に作動していると言えるかは微妙な訳で。

 ふぅ〜・・・・・・まぁ仕方が無い。同僚(コイツ)の人生が懸かっているし真面目にやらねば。

 そして俺は真剣に、それこそ同僚の言葉すら気留めることなく作業に没頭するのであった。





「うぅ・・・・・・ガラスさんが無視した・・・・・・」 

 まったく・・・・・・恨みがましい、かつ泣き出しそうな目で俺を見るな!

「確かに悪いとは思うが・・・・・・無事終わったんだから感謝したらどうだ? 主に祝福と奇跡をくださった聖皇様、ついでに俺とか」

 処理が終了し休憩室まで歩く途中同僚の非難の眼差しと言葉を受けながら俺は不平をこぼす。それにしても技術が俺の世界に近づいてきている。そろそろ余裕ではいられなくなるだろう。

「フン! 私の気持ちを踏みにじった罰です!」

 オーイ何言っちゃってるのこの娘? 誤解を招くようなことを言うな! コレだから天然は。オジサンはこの子の将来が心配です。

 ここで働く時点で真っ暗だがね! 

 周りの刺すような視線が心身につき刺さる。周囲からは「またやってるよ」だの「これだから『爆弾魔ボマー』は」などという言葉が聞こえてくる。

 俺はそんな声を気にしないよう自身に言い聞かせ、「あぁ〜そうかい」と言いながら、誰もいないところへ視線を移し、つい数週間まで行っていた安全かつ平和なゲート官のとしての仕事を懐かしく思った。


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