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三話




 現在、見知らぬ風貌の集団が我が家の広間に集まっている。私は個性的な風貌と、町で周囲を見渡すと目に入るような極普通の人達や既に正装の人たちが皆、フィリップの説明を真剣に聞いているのを眺めていた。

 集団の中には今から魔物討伐に向かうかのような鎧姿で、わかりやすい――これでもかというほど目立つ武器、身の丈ほどある大剣や、槍、などを背負う者達。

 またはワイシャツとジーンズというラフな格好で二振りの剣を腰に下げているもの。寒くも無い今の時期に焦げ茶色のコート姿で佇み、格好とは別に強い違和感を放つ女性――いや・・・・・・男かな? とにかくそんな集団だった。

 しっかりと給仕の格好をした男女数名を除いてあまりにも場違いにしか見えなかった。

   オカシイ、余分に採ったのは給仕のはずだと言うのに明らかに人数が合わない。

「コレ・・・・・・大丈夫なの?」

 私が父に問いかけるのは当然のことだと思う。・・・・・・たぶん。

「大丈夫だろ、少なくとも『鎧君』たちは警備、『給仕君』たちは給仕で決まりだろうな」

 テキトーにつけたあだ名から溢れ出る父のネーミングセンスはこの際置いておくとして、私はその意見に同意した。

 しかし、警備は多いに越したことは無いのだろう。けど武器携帯者を警備にすると必要な給仕が足りない。どうしたものかと私は頭を悩ませていた。

「そうだな、彼らも給仕だな」

 父が私に双剣の人とコートの人を目で指す。

 ・・・・・・まぁ、剣持ってるあの人はまともそう、と言うか去年見た気もするし大丈夫かな? もう片方は――まぁ、駄目ならフィリップがどうにかするでしょ。

 フィリップにできないことは無いのではないかと私は思っている。

 フィリップ万能説。彼に任せれば何とでもなる。

 この認識は身内どころかこの街での共通認識だったりする。

 まぁ、大半が半分冗談として捉らえているわけだけど。

 冗談じゃなくできそうだから恐ろしい。

「そうね、大柄じゃないから予備の服のサイズとも合いそうだし」

「では決まりだ」

 そういうと父はフィリップのもとに向かい、警備と給仕ごとに分けて説明に入った。私はその様子を眺める。

 ふと、コートの人物に視線を向けると、やはり強い違和感を覚えた。見た目ではない漠然としたもの。

 しかし、ソレはただ強いだけであり、不思議と嫌悪感や恐怖といった印象は無い。私はただ、『何かが違う』という漠然とした言葉にできない感覚を抱きながらいつも通り帳簿をつけるために部屋へともどった。



 帳簿とにらめっこしているうちにだいぶ時間が過ぎていたみたいだ。ふと机の上においてある古ぼけた時計を見るとあと半刻ほどで昼になる時間だった。

 そういえば今日はおじさんとあいつが着てるんだっけ。

 挨拶に行ってくるかな。おじさんのついでにあいつにも。

 ・・・・・・あくまでついでだ。

 私は卒業以来めっきり会うことが減った幼馴染の少年の栗毛色の髪と、穏やかな表情を思い出し思う。

 あいつも冒険者になるんだっけ? と、いうことは今日来てる人たちはあいつの先輩になるのか。

 う〜ん・・・・・・どうもしっくり来ない。

 鎧姿の面々を思い出しながら思う。

 腕はいいけど争いごとのイメージの強いギルドとはどうしてもつなげて考えることができないなと私は思いながら、厨房へと向かうのだった。



「父さん下ごしらえは終わったよー!」

「おう、んじゃスープのほう任せる!」

「了解〜」

「エドガーさん生地出来上がりました。保存庫に運んでおきますか?」

「そこにおいとけ! 次はそこの野菜を任せる」

「は〜い」

「おし、それがすみ次第バイトどもの賄いを仕上げとけ! 俺はエドかエリスちゃんに念のため確認を取ってくる! へますんなよ!?」

「「りょうか〜い!」」

 厨房に近づくと若干叫ぶような大声でのやり取りが聞こえてきたが。聞こえてくるのは聞きなれた二人の親子の声にはじめて聞く声が混ざっている。

 新しく料理人を追加したのだろうか? 確かに2人であの量を仕上げるのは大変だと思っていたけど、まったく、そういう手配をしたのなら何故、昨日話してくれなかったのか。 

 私は父に憤慨しながらも無茶をさせられている親子と新しい手伝い(仮定)に謝罪をするべく厨房に入った。



「こんにちは」
「おう、エリスちゃん! 丁度良い!」

 当たり障り無い極々平凡な挨拶を行うとエドガーおじさんが笑顔で出迎えた。実際用もあったようだから手間が省けてうれしいのだろう。

 厨房の奥で幼馴染が神妙な顔でせっせと並べられている大鍋を交互にそして慎重にかき回している。

 その後ろで二人と同じ割烹着姿の黒髪が、強い違和感を放ちながらせっせと抱えるほどの野菜を包丁で『トトトトトトト』と、はたから見れば乱雑に見えるそぶりでありながらも正確にいや、精密に切り出していた。

 ・・・・・・あれ?

 ・・・・・・あの人給仕の講習を受けていたはずでは?

 イヤイヤイヤ・・・・・・なんで厨房で働いている?

 というか、何故この親子はいかにも当然と言った感じで作業しているのか。絶対これは追加で手配したという訳じゃない。

 おかしいでしょ? おかしいよね?

 どこの誰ともわからないギルドの――いやまぁ、コックとして雇ってるならまだしも、給仕のしかも気温を無視したかのようなコート姿の怪しい人物を厨房に入れる? 今は脱いでるみたいだけどさ!

 そもそもなんでこの二人しか雇えていないのかわかっていないのだろうか? 身内で開く拙く小さなパーティ。飾り気の無いこの集まりで、せめて料理において間違いの無いよう万全かつ安心第一の人選だったと言うのに。

 私は二人に労いの言葉をかけることを忘れて問題の解決を優先しエドガーおじさんに問いかけようと――。

「早速で悪いんだが厨房に一人追加したいんだがいいかな? あぁ、エドには『見つかった』と伝えておいてくれ! こなせなくは無いが二人で回すとなると雑になっちまいそうでね!」

「あ、はいわかりまし――じゃなくて!」

 エドガーおじさんが忙しそうに勢いづけて私に了承と|伝言《おつかい》を頼んでくる。

 あまりの勢いについつい飲まれてきびすを返しそうになってしまった。が、私は一寸停止し、息を整えて冷静になるように勤め・・・・・・。

「いえ、あの・・・・・・何故彼が厨房にいるのですか? 今はフィリップの講習を受けているはずですが」

 ノリ突っ込みのような返答をしたことに羞恥を覚えつつもエドガーおじさんに問いかけた。

「あぁ、給仕組みは出来よくて早めの休憩中だよ。どうやら注文に手違いがあったらしくてね。急遽量を増やさなくちゃならなくなった」

 ちょっ――急にそんなのって・・・・・・。

「フィリップに人手が足りんとこぼしたらアイツが派遣されてね、安心してくれエリスちゃん。アイツ、有効地区外とはいえ食品衛生責任者の資格まで持ってやがる、腕もまぁまぁだ。それに念のため簡単なやつしか任せてねぇ」

 私の様子を気に留める様子など無くエドガーおじさんは問題の人物に視線を向けながら答えた。

 自身のことでもないのに得意げな様子で説明するエドガーおじさんを不思議にもいながらも視線の先にいる黒髪の人物に感心した。

 ――意外とちゃんとした人物なのだなぁ、と。

 本人はこちらを気にした様子は無く見事な包丁捌きで大型の野菜を黙々と――いや、聴いたことも無いアップテンポのメロディーを鼻歌で小さく歌いながら解体を始めていた。

 その様子は包丁を指でクルクルと回している様子が幻視できそうなほどに楽しそうだ。

 とにかくおじさんがあそこまで押すのだから大丈夫だろう。判断を下したのがフィリップなら尚更だ。

 しかし・・・・・・しかしだ。

「難しいと思います。父には伝えてみますが許可できない可能性もあります。給仕も足りていませんので。もし駄目なら緊急で当日のみ手配するかもしれませんが」

 私の答えにエドガーおじさんは肩を若干落としながら。

「そうか・・・・・・。だが、無理なら追加はとらないでくれないか。この時期じゃ急に集めてもまともな奴は皆採られていそうだからね。一応そこらへんもよろしく伝えておいてくれ」

 と言った。

 私が「はい」と返すとエドガーおじさんは「おぅし!」という掛け声と共に厨房にもどっていく。

 う〜ん、気迫が伝わってくる。今まさに歴戦の戦士が戦地に向かっていったのだ。我が身を投げ打ってまで任務を全うするために。

 ・・・・・・うん。もうなぜこんなギリギリの定員で雇ったのかな? 予期せぬこととはいえ数週間前の私に小一時間問いただしたい。

 くそぅ、警備員を追加したこと以外は昨年と同じだったから油断してしまった・・・・・・。

 ・・・・・・とにかく!

 父に言伝だ。

 謝罪はそのあとたっぷりとすることにしよう。




「そのことか。一応フィリップからも話は聞いた。エドには悪いが稼業外にジェノスくんが残れない限り無理だろう。当日は場合によるな。往復してもらうことになるかもしれん」

 警備員のほうも一段落ついたようだ。一塊になって雑談、――もしくは割り振りをしている。いや、そもそもそれほど講習が必要なのかと言う疑問があるけれど。警備にも色々あるのかもしれない。

 しかし、今更だけどその『エド』という愛称ニックネームはお互いどうだろう? あんたも『エド(ワード)』だろうに。

 まぁ、それはともかくとして流石はフィリップ! すでに話を通してあるとは。

「やっぱりそうなるよね。それよりも、彼・・・・・・ジェノスさんだっけ? 一時的とはいっても厨房なんか任せていいの?」

「問題ない」

 そう言うと父は私に一冊のファイルを開いて見せる。

 しかし、実に力強い返答だ。

 ふむ・・・・・・なになに? ジェノス・バーランドっと・・・・・・。

 へぇ〜減点0ノーミスか。多分すごいのかな? 職業履歴はどれが何かはわからないけど幅広く活動しているようだ。

「ここだ。」

 父が活動クエスト履歴の一箇所を指差す。

 ・・・・・・字が細かい上に風でなびいて見辛い。私は目を凝らしながら読んだ。

 えっと、なになに?

 飲食店『熊の食卓』。契約内容、調理補助3週間。※雇用3日後契約変更、調理補助から厨房へ・・・・・・。

「なるほど。経験者ってわけね? でも・・・・・・調理に携わってるのはコレだけみたいよ?」

「そうだが、『熊の食卓』聞いたことないか?」

 いや、全然わかんない。聞いたことはあるし、契約してることも知ってはいるけどそれだけじゃわからない。

 私はお手上げのポーズ。
 すると父はあごに手を当て考えるポーズ。
 そしてその二人とも時が停止したかのように数秒、時は流れる。

 ・・・・・・なんだこの二人? 自分で言うのもなんだけどさ。

 警備員の集団のうち、数人がこっちを怪訝そうに見ている。

 コッチミンナ! 恥ずかしいから!

 いい加減説明を要求しようと思い両腕を下ろすと父がようやく言葉を発した。

「う〜む。・・・・・・まぁいい。我々がその店主と契約結んだ日付が彼の契約期間と重なるのだが重なるのだよ。当日ご馳走になったが中々の味だったぞ」

 イヤイヤイヤ・・・・・・。

「そんな契約する一店一店の、しかも日付まで覚えられないから!」

 ん? まてまて、そうじゃなくて。

「彼がそれに携わっていたとは限らないんじゃないの?」

「おぉ」

 父は、ポンと右手で左手のひらを叩く。うん、納得のポーズだ。

 ――何を考えてるのだろうかこの中年は。

 私はさぞかし呆れた目で父を見ていることだろう。何せ体から力が抜けているのを自覚できるくらいなのだから。

 私から送られるライン状の光線を放つくらいの意気込みで送る白い視線を受けながらも父はにやりと笑う。

「冗談だ。そんな目で見るな。フィリップもその場にいたからな。OKを出したということは知っていたということだろうよ。覚えているか? 半年ほど前の話だが」

 なるほどね、あの悪夢とも呼べる書類地獄の4日間のときね。でも、その冗談は面白くないと思うよ。

 心の中でつぶやく。口には出さない、どうせ軽くスルーされるだけだし、父さんことだからわかっていながら言ってそうだ。ムキになって返すのならばそれなりに会話も楽しめるのだろうけど。

 まぁしかし、それならまぁ納得だ。私はため息をつきながらいくつか今後の確認をとると、再び厨房に向かうのだった。



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