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その1




人里から離れた人とモンスターとが互いの命を賭ける戦場。

生存の糧を奪い合う舞台。

そんな中、堅い信念を持つ一人の男によって使命の全うを心に誓う儀式が始まっていた。

相棒ともいえる木製の弓を肩にかけ、腰にくくりつけられたホルダーへと薬瓶を装填する。

そして、長い鼻と赤い光沢が象徴的なそれを手に取り、顔にゆっくりと押しつけた。


流れるようでありながら確かな力強さ溢れるその儀式によって

窪み、風穴でしかなかった眼に光が宿る。


高く、太く、力強い、

天を指し示すその成り立ちは

揺るがない信念を。


濃く、鮮鮮かな

燃えるような色彩は

己の熱い魂を象徴している。

雄々しく、陽の光を体中に浴びながら煌く、

彼にとっての無駄をいっさい省く着飾らないその出で立ちは

謙虚な心構えと何人にも壁を作らない器の広さを表している。



と、男は信じて疑っていない。



彼は今日も己の身を顧みず、

すべての敵に施しと己の定めた義務を全うするべく奮闘する。



自然と同化しながらも己の存在を強烈に知らしめるそのあり方

その姿、そのあり方

紛れもなくそれは





只の半裸の変態だった。







デコオンライン二次創作小説。
「辻天狗生態観察記」







「くそっ」

 深緑で飾られた木々の中、巨大な剣を手にした戦士は、幹を奇怪な色彩で飾る植物に囲まれ、悪態をついた。

 しかし、自身の限界が近いという事実は変わることはなかった。戦士はただ、使い古された巨剣を掲げることで牽制し戦うが、頼みの綱である仲間である弓使いは一向に戻る気配はない。

 一時補給に向かった相棒を出し抜き、大量の納品物を見せつけ驚かせよう。そんな事を思い、一人抜け駆けをした結果が今現在の惨状だった。

「まさかこんなに出るとはな」

 元々鋭い眼光をより険しく釣りあげながら

 鞭のような幹や枝を避け、堅実にそれを切り落とす。

 しかし、それでも全てを避けきることはできておらず、その動作ごとに打ちつけられた左腕や腹部からは重痛が容赦なく響き、確実に本来の動きと気力を殺いでいた。

 その痛み、さらには着実に増え続ける疲労感がとともに絶望感が奮闘しながらも募り始める。

 そして、あぁ、これは駄目だ、と遂には貯めこめていた心情を漏らしてしまうほどに、彼の気力は摩耗していた。



 ――ギチッ ブォン!! 

 そんな彼の心情に止めとささんと言わんばかりに木の化け物は、

 赤茶色い幹が柔軟の限界に挑むようなしなりとともに渾身の一撃を放った。

「ガハァッ!」 

 容赦なく打ちつけられた彼は、地へ鈍い音を響かせる。

 「ぐっ!」

 鋭い一撃によって地に倒れ、先ほどより凶悪に見える追撃を眺める。

 彼はこれから身を襲うであろう衝撃に備え身構えるしかなかった。



   ――バシューン

「――え? ぐはぁ!」

 痛い、がまだ生きている?

 強烈な痛みに紛れた微かな感覚が、絶望に染められていた意識を一転させる。



 ――バシュバシュバシューン



 この回復は。

 やっと来たか。

 疲労と痛みで鈍くなった四肢を叱責する。何事もなかったかのように、いや、それに応えるように、力が漲ってくるのを感じていた。

 まったく、見計らったかのようなタイミングで戻ってきたものだ。
 ヒーローは遅れてやって来るとは言うが、お前にそんな要素はないぞ。

 口元がつりあげ、そんなことを考える余裕が出てきた自分に驚き笑った。

 そして、その仲間に感謝の念を伝えるべく声を荒げる。

「助かった! すまん! ちょっとへましちまっ――」

 そして、視線を微かに移すと、視界の隅に己が相棒の勇姿―― 

  「待たせたな!!」

 ――の代わりに仮面をかぶった海パンの変態が舞っていた。

「――ダレ!!?」



「ごふぅっ!」



 深紅の天狗面をかぶり、舞うように初心者用の弓を無駄にそして鮮やかに操るその姿は見る者を釘づけせずにはいられない。

 当然、先ほどまで危機的状況の中で感情を上下させていた人物が動きを止めてしまったのは言うまでもない。



 大剣使いは、化け物によって執拗に繰り返される強烈な一撃をその身に受け、悲痛な音が肺から吐き出させられる。

 しかし敵は待ってはくれない。当然のごとく、周囲の木々を模したモンスターは彼を滅多打ちにするのだった。

「ちょ、まっ。イタッ! ヤメテ」

 先ほどとは打って変わって情けない悲鳴と洒落にならない打撃音があたりに響く。

 ――バシュバシュバシューン

「フハハハハハハ!!!!」

 回復音と高笑いとともに。

 ――シャラシャラシャラ

 笑いながら治癒の矢やサクリファイス、治癒の雨までをも駆使し、その技独特の発光で手元を眩い光で照らし続けるその様。

 周囲のモンスターの攻撃を避けることによって舞うようなその動き。

 差し込む光と回復光、それを受けた汗によって煌く身体。



 きもちわるい。そしてここから離れたい。
 大剣使いは激痛の中、そう思わずにはいられなかった。

 しかし、彼の援護は止まらない。無駄に洗練された無駄のない弓捌きで次々と大剣使いを癒す。

 その行いは正しく、紛れもなく善行。

 しかし、不毛にもその行いは己の強烈な存在によって、大剣使への精神的打撃を与える結果を生み出し、善行をものの見事に相殺し続けていた。

「イテェ! このぉヤロウ!」

 ――ザァンッ!!

 捨て鉢ながらも鋭い斬撃。

 情けない悲鳴と、掛け声のもとに、大権使いは遂に執拗に己へと撓る体を打ちつけるモンスターを切り捨てた。

 永遠とも思える数秒の間、変態の強烈な個性によって、容赦のない追撃と痛みによって我に返らざるを得なくなった人物がついに、

 驚異的ともいえる理性をもって現状を打破する最良の行動を起こすことに成功する。

 唯、我に返って剣を振り回すだけ、それだけの違いでしかなかったが、この時確かに枯れ木を模したモンスターの命運は決することとなっのだった。

 大剣使いは喧しい回復音を無視し、作業化しつつある枯れ木狩りを行いながら思考する。

 わかったことがいくつかあると。

 モンスターは減りつつあるがそれは自分が葬った分でしかないということ。

 そして、自身の傷がなくとも治癒の矢が絶え間なく飛んでくるということだ。

 正直に言って邪魔くさい。いや、確かにあの変態が居なければ自分がここに立っていることはないのだが、

 それをあまりあるほどに治癒の矢が喧しい。

「HAHAHAHAHAHA!!!」

 訂正、あの高笑いも煩い。特に笑う時に限って矢の量が増すことにも大剣使いは気がついた。

 本来ならば恩を感じてもおかしくもない状況であるのにもかかわらず。大剣使いはどうしても苛立ちを募らせてしまう。

「ガイアがもっと輝けと囁いている」

 補給に行った仲間はいまだに返ってこないこの現状で実質頼れるのは己とこの変態のみだ。

 なんか言ってるし、理解もできない。訂正、理解したくない。

 何が『この瞬間、世界の中心は間違いなく俺』だ。お前を中心に回ってたまるか。早く戻ってきてくれ。

 と大剣使いは相棒の帰還を生命の危機に瀕した時以上に渇望した。

 この事態を切る抜けられたならば、相棒弓使いに投げかけようと思った感謝の念や言葉に数日の夕食代などの色を付けるのも吝かではないと

 守銭奴を自称する彼が考えるほどに。

 現時点で唯一この現状を解決する術を大剣使いは行使するほかなかった。

 大剣使いは大いに嘆く。

 相も変わらず、攻撃という行為放棄し、周囲のモンスターも一切無視して踊り猛る天狗を横目に見ながら。

   







――変態サイド

「待たせたな!!」

 誰も待っているとは思っていない。しかし、己の葛藤のさなかこの男が危機に瀕していたのは間違いのない事実であるはずだ。

 この戦士を助けたい。その思いと自身の羞恥を天秤にかけた結果、戦士の命を選んだ自身が誇らしかった。

 などと彼は自身に言い聞かせていたが実際の心情は自棄以外の何物でもない。

 どうしてこうなった。そう思わずにはいられない。

 そう思いながら彼は己の気まぐれを振り返り、ついつい後悔の念を覚えずにはいられなかった。



 副業として販売している治癒薬の材料集め、兼散歩をしていたはずだった。

 自身の力量以上の狩り場での採取。モンスターや狩り人共に遭遇せぬように細心の注意を持って森を散策していた。

 狩り人への注意を行うのは単に己のトラウマ故の行為である。

 散策、採取を開始し一刻が過ぎ、質の良い薬草や趣味の劇物採取を順調にこなした彼はホクホク顔だ。

 彼を知らぬ者なら微笑ましく感じ、知る者なら後ずさるほどに。

 あまりに順調な採取。おまけに掘り出し物を猫ばば――もとい発掘し、本業に切り替えられそうなほどな収穫物を得て気分が浮かれた彼は、ほんの気まぐれで普段とは違う道から帰宅することにした。

 これほどの収穫物があればトラウマの原因となった事柄も起きえないだろうという考えで。



   森が騒がしい。

 普段は避けて通る穴場、一部において有名な狩り場付近。

 狩りが行われることは珍しくなかったが、彼はよからぬ気配を感じ遠巻きにその様子を確認することにした。

 

 彼は絶句する。

 何だあのモンスターの量は。

 とても一人で相手できる数ではなく、しかしそれでも一人の戦士が果敢にも耐えしのいでいる。

 その勇猛な姿は心を動かされるものがあったが、このままで限界に達するのは彼の目に見ても明らかだった。

 助けなければ!

 そうは思ったものの、その一歩を踏み出すことができない。

 ライセンスを持っていないのだ。

 持っていないからといって罰せられるわけではない。報酬が出ないだけである。
 しかし、持たずに狩るのはマナー違反とされており、事と場合によっては組合から干されてしまうほどにライセンスへの意識は強いものだった。

 ギルドに属さない自分にとっては誰に迷惑をかけるわけでもない。

 しかし、只でさえ肩身の狭い思いをしているというのに、現状悪化はどうしても避けたかった。

 彼は葛藤する。

 見なかったことにするのは気が引ける。では、助けを呼ぶか? いや、間に合わない。ここはアインドフの外れだぞ。

 では助ける? 万が一組合に見つかったら? たとえ見つからなかった、そしてあの剣士に口止めできたとして、剣士がぼろを出さない保証もない。

 如何する? 命か生活か。

 戦利品を眺めると、今後の人生計画案、それも縁起でもない未来予想図が走馬灯のごとく流れていく。

 そもそも、助けに入ったところで自身の身の安全どころか、彼を助けることができるという保証すらない。

 そして、そこに得られるものもないのだ。

 自身の生活を守るため、彼の脳は次々と自己中心的な大義名分を製造する。

 しかしながら、己の良心の呵責がそれを済んでのところで押さえつけていた。

 クソッ!

 この装備では無免許がばれるのは目に見えている。

 いや、この場でそれがバレなかろうと、顔を見られれば遅かれ早かれ同じことだ。

 一体どうすれば――。

 一刻の猶予もない事態に彼は混乱する中、

「顔を隠す・・・・・・これだ!!」



 そう、紅く染まった雄々しき戦利品が目に入った。



 彼は、己が進路を歪めるものとは知らずにその物品を眺める。



 そして、彼は、致命的なほど愚かな選択をしたのであった。







「ガイアがもっと輝けと囁いている」

 自分で何を言っているのかが分からない。

 だがあえて言おう。この瞬間、世界の中心は間違いなく俺だと。

 そう思わなければやってられないほどに彼は自棄になっていた。

 取り囲むモンスター。肌を掠める鞭のような打撃。

 冷や汗が止まらない。

 乾いた笑いが止まらない。

 敵の攻撃も止まらない。

 しかし、様々な要素により一種の興奮状態と何かの境地に到りそうになる感覚を覚える中、天狗の頭はどこか冷めていた。

 それにしてもあの戦士は中々のものだ。

 サポートを受けるのに慣れているのか、治癒の矢が届きやすい範囲内で駆け回っている。

 さらに言えばあの鋭い斬撃、攻撃に関しては中の上とも言っていいのではないか。

 度々致命打をもらうことには肝を冷やされるが、敵の数が数だ。目をつむろう。

 あと……欲を言えば、俺の周りにいるモンスターも倒すくらいの心配りがあればいいのだが。

 と懇願に近い願いを抱きながら分析するほどに。

 そして、天狗は自身の立場を思い苦笑する。

 まぁ、スナイパーの資格を取ってそのまま埃かぶらせている自分に言われる筋合いは無いだろうと。


 しかしなかなかに切実だ、己の攻撃ではこいつらに牽制はできても傷を負わせられない。

 どうしたものか。形だけでも攻撃しようにも、一撃もらえば即アウトである。

 自然を肌で感じる事ができるこの装備はやみつきになりそうだが装甲が薄いのはいただけない。

 天狗は深刻な問題に直面していた。

「おい!! 余裕見せるのはいいけど、自分の周りの奴も倒せ!!」

 あ、なるほど。俺が倒せると思ってるわけですか。

 残念ながら俺の矢など弾かれるのがおちだ。

 俺は無駄なことはしない主義なのだよ! まぁ、今まさに無駄な事をしている感が否めないが。

 と、止めとなるような要望を受け、天狗は無駄に盛り上がる。

 もちろん心の中だけで。

 何度も繰り返すが自棄以外の何物でもない。

 そして、その感情を隠すことなく天狗は叫んだ。

「俺は俺の仕事をこなすまで!」

「ああああ! 面倒くせぇ! わかったよ。こっちの数減ったらなすりつけに来い。それ以上は無理だ」



 

――大剣使いサイド

「了解。主が望むままに」

 うっせぇ。望むままとかならその取り巻き倒せ!

 という言葉を呑みこみながら大剣使いは 

「あいよ。たのむぞ」

 と返事を返すにとどめた。

 苛立ちを募らせていたが、あくまで自身が助けられている立場だという事実を忘れてはいなかったからだ。

 敬意を抱く気は毛頭なかったが。感謝の念を殴り捨てるほど幼稚ではない。

 それに、相棒である弓使いがこの場にいたとして、攻撃に移させるほど防御と、タゲとりを間に合わせる自身もなかったのも事実だった。

 確かに、一撃も反撃に出ないのは異様としかいえないが、姿はともかく態々助けに来た人物である。

 大剣使いの身を優先しているのではという考えも彼によぎっていた。



 大剣使いの口がつりあがる。

   沸々と、熱が体に湧き、駆け巡る。

 まったくもって馬鹿馬鹿しい。さらに言うなら考えている場合じゃない。 

「ふッ……おおおぉオオオォオオオオ!!!!」

 そう彼は思うと、邪念を捨て心と体、そして闘志を燃やす。

 ―――ゴォッ!!!

 そして、彼は凶悪な力を持って枯れ木の化け物を



 全ての防御を殴り捨てて。

 塵のごとく引き裂いた。





――サイドアウト



「ごめ〜ん。ちょっと遅くなっちゃ――え、何、これ?」

 陽気な声があたりに響く。しかし、その声は殺伐とした残骸を見ると途切れ途切れな問いへとなった。

「あぁ、おかえり」

 それに答えたのは未だかつてない疲労感を込め多様な声。
 地に突き立てた大剣を背にし、自重を預けながら、ゆっくりと視線を向けた。
 そして、肺に込められたものを全て吐き出すような長い溜息をつく。

「ちょっと大群とやりあっただけだ」

「いや、コレ大群ってレベルじゃ無いよね? よくもまぁ無事だったこと」

 弓使いは足の踏み場がないほどに木々が散乱している様を見て呆れ顔で言う。

「まぁ、な。なぁ、今日はもう帰っていいかな。へとへとなんだけど」

「アハハハハ、何を言うか!! 君が如何であろうとこの追加で買った薬分は働いてもらうさ!!」

「く、薬代払うから帰「さあ! 化け木め! どこからでもかかってこい!!」聞いちゃいねぇ・・・・・・」

 弓使いは言葉を振り切るように走りだす様を見て、大剣士は肩をすくめながらその後をフラフラと追うのだった。







「ざまぁ。いい気味だ。これに懲りて無茶を止めるんだな」

 賑やかな二人組から離れた樹木の陰、そこに潜む紅い天狗が気だるげに呟く。

 遠くで騒ぐ二人組は、再び出現した化け木を屠っている。

 うむ、あの弓使いも中々の腕前。

 アイドフの狩り人は化け物ばかりだ。

 天狗には彼らが溢れんばかりの活力を放っているように見えて仕方がなかった。

「しかし、疲れた。そしてよくもまぁ無事だったこと」

 空になりかけた薬瓶を玩び、しみじみと今日を振り返る。

 鬼神の如く、木を薙ぎ倒していく剣士。
 
 攻撃しか考えないその様は寒気がする以前に、狩りとしてどうかと思ったが。

「まぁ、俺にも言えることか」

 しかし、得たものは大きい。

 今日の体験は彼にとって大きな変化をもたらしたのだから。

 彼は今日学んだことをおもむろに呟く。

「ライセンスだけでも取っておくかぁ……」

――それにしても





「この装備、……良いかもしれない」



 一人の変態が生まれた。

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